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書評 遊学館ブックス『小説にみる山形』


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 山形県民に生涯学習の機会を広く提供するため、平成2年に開所した山形県生涯学習センター(細谷知行理事長、山形市緑町一丁目)は、これまで様々な講座を開講してきた。中でも先導的な学習講座として構想された「山形学」講座は、同センターの中心的な講座として毎年テーマを変えて継続している。「山形学」は山形県を多様な切り口で調査、研究する地域学で、「山形を知る」、「山形に生きる」、「山形を創る」という3つの願いを込め、山形県人としてのアイデンティティを確立し、豊かな地域づくりを担っていく人づくりを目指している。講座は、その学習成果の深化と拡大を図るために内容を編集し、『新アルカディア叢書』、『遊学館ブックス』として発刊している。   平成28年度は、小説に焦点を当て、小説に描かられた山形や物語に表出する山形の深奥(しんおう)、山形に惹かれ、生きた作家たちの姿などから、山形の豊かな文学風土を明らかにして、山形の魅力を掘り起こそうと試みた。
 掲載内容は、フォーラム「文学にみる山形」では、佐伯一麦氏(小説家)、小池昌代氏(詩人・小説家)、池上冬樹氏(文芸評論家)の3名が第一部「私と山形の関わり。風土、文化、人の記憶」、第二部「私の好きな山形文学(小説、詩、短歌、俳句)を語る」と題して行った鼎談の模様を伝える。
 第1回館内学習の講座では、「語られた人物」をテーマに、高橋義夫氏(作家)、鈴木由紀子氏(作家)が講演した内容を掲載した。高橋氏は最上義光とその妹の義姫について触れ、小説『最上義光』を書く前に地元の人から聞いたところ両者ともに評判が悪かったことを紹介し、それは昔の大河ドラマの印象が非常に強いことに起因していることに気づいた。憎々しい顔で出てきてずるい義光や高慢な顔をして人を見下す義姫を演じた俳優の演技があまりにも優れていたのでどうもそのイメージが定着してしまったと述べている。高橋氏は、「小説を書くときは主人公が好きになれないと書けない。両者の評判の悪い理由は、基本的な資料が上杉景勝と伊達政宗の二家の資料に基づいているものが多いからだ」と述べている。
 鈴木氏は、『ハンサムウーマン新島八重』を執筆中に、「上杉茂憲の奥方が会津藩主の松平容保の妹で、米沢藩とは極めて近い姻戚関係だったことから、何としても会津藩と戦争になるのは避けたかった」として、この事実は『米沢市史』にはきちんと記されていないが、『上杉家御年譜』にはちゃんと載っており、なぜそれを隠していたかというと、(奥羽越列藩同盟で)「米沢は旗振り役をやりながら、新政府軍に一早く降伏したという後ろめたさがあったんだろう」と述べる。さらに歴史の因縁は深く、誰も藩主や世嗣の奥方の係累までたどっていないが、そこまで調べると面白いものが見えてくると述べている。
 本書ではほかに第2回「藤沢作品に描かれた舞台を歩く」、第3回「怪異と伝承」の謎、第4回「作家はふるさと山形をどう描いたか」、第5回「井上作品・浜田作品の原点を訪れる」、を掲載した。内容は講演という形式で読みやすく、飽きさせない実に多彩な分野を網羅しているので、ぜひ一読を勧めたい。(米沢日報デジタル/成澤礼夫)

編集・発行 (公益)山形県生涯学習文化財団(山形県生涯学習センター)
発行日 平成29年12月15日発行
定価 本体1000円+税
ISBN978-4-9907591-3-1

(2018年2月13日12:00配信、2月14日09:50最新版)