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竹田 歴史講座

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書評 遊学館ブックス「どっこい方言は生きている」


yuugakukan2020 公益財団法人山形県生涯学習文化財団(山形県生涯学習センター、山形市)は、生涯学習の機会を県民に広く提供するため、平成2年の開所以来、様々な講座を開設し、その中で「山形学」講座は中心的なものとして、毎年テーマを変えて開講している。
 山形県の自然や文化など、それに関する書物や情報のあらゆるものを教材にして、多様な切り口から調査、研究する地域学「山形学」は、「山形を知る」、「山形に生きる」、「山形を創る」、の3つの願いが込められおり、山形県人としてのアイデンティティを確立することで、地域を担っていく人づくりを目指すものである。

 平成30年度のテーマは、「方言」に焦点を当て、共通語が普及する中で方言は消えてしまうのか、方言の変化をめぐる多様な今を通じて、山形の魅力やあり方を捉えなおす講座を目指した。令和2年1月30日に発行の遊学館ブックスでは、平成30年6月30日に実施した「山形学」フォーラム「どっこい方言は生きている」及び同年度の「山形学」講座の「どっこい方言は生きている」の内容を記録した。
 フォ−ラムでは、NHK山形放送局シニアアナウンサーの柴田徹氏が「今夜はなまらナイト〜こばくささの裏側に〜」と題して基調講演を行った。昭和43年、山形市に生まれた柴田氏は、大学卒業後、NHKに入局、配属された所は青森で、「山形の100倍ぐらい」なまっていて、そののレベルの違いにびっくりした。山形では方言を隠したいと思っている人が多いが、青森では方言をしゃべろうという番組が結構あったという。その代表例として、伊奈かっぺいさんをあげている。
 国内転勤を経て、2006年にNHK山形放送局に赴任し、山形の若者を元気にする番組を、という思いから「今夜はなまらナイト」を企画し、2007年1月にラジオ番組がスタート、2008年10月にはテレビのゴールデンタイムに進出した。その後、ホールでの公開放送、大学生とのコラボ企画などを展開、番組では終始山形弁で話すことだが、無理に山形弁を話すのではなく、自分の思うことを自分の言葉で話すということを求めた。
 高校生時分の柴田さんは、学校の授業や公共の場では共通語で話しても、悔しさや悲しさなどの感情が伴う友達同士の会話はいつも山形弁で話が行われた。それは自分の思いが乗っかった言葉(方言)の方が相手に伝わったからだという。
「今夜はなまらナイト」の番組作りでの作業は、柴田氏に取りアイデンティティの確認であり、その「根っこ」である方言は実は目的でなく手段だった。山形を考える時に方言抜きでは無理だと気付いたという。最後に柴田氏は山形の言葉の中で生きてきた時間は、自己形成の上でとても重要だったと述べている。
 同日開催されたパネルディスカッションでは、「方言のこれまでとこれから」と題して、柴田氏がコメンテーター、弘前大学教授の佐藤和之氏、元日本国語大辞典編集長の神永暁氏がパネリストとなり、議論を深めている。講座は館内学習3回、現地学習2回(新庄、三川町)の計5回開催したが、その詳しい内容が本書に掲載されている。

 私は鶴岡市の出身だが、22歳より米沢市に40年間住んでみて、山形県内の中で最も方言が消えてしまったのは、ここ米沢市ではないかと考えている。その原因の背景には、山形新幹線が開通して東京との人的交流が容易になり、電子機械製造などの下請け会社が多い米沢市は、親会社からの赴任者や米沢から親会社への赴任者も多く、コミュニケーションを共通語で取らざるを得ないという事情があるのではないか。また、学校の授業も先生たちは共通語で行っているから、当然、子供たちも共通語で育ち、話す機会が多いことになる。
 しかし、庄内地方に行くと米沢と似たような社会的背景があるものの、庄内弁は依然として健在なことに驚く。庄内に住む人たちにとっては、明らかに庄内弁が地域の共通語である。そこには文化を大事にする庄内人らしさ、庄内人のアイデンティティ、誇りが土台にあるように思うのである。(書評 米沢日報デジタル/成澤礼夫)

定価 本体1,000円+税
発行 公益財団法人山形県生涯学習文化財団
発行日 令和2年1月30日

(2020年2月9日19:10配信)