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書評 置賜民俗学会会誌「置賜の民俗第31号」特集 酒の民俗


1 民俗学の学習を通して、会員相互の親睦と向上を図ることを目的に事業を行っている置賜民俗学会(守谷英一会長)が発行する会誌。
 特集では令和6年6月16日、同会が開催したシンポジウム「酒の民俗」を紹介している。酒は古代から日本人にとって冠婚葬祭には切っても切れないもので、来客へのもてなし、会合後の祝宴では酒を酌み交わすことで、コミュニケーションがスムースになり、人間関係が円滑になるなど多くの役割を果たしてきた。全国各地にある日本酒の酒蔵、九州の焼酎、沖縄の泡盛など、米、芋、サトウキビといったその土地の作物を使っての酒作りが行われ、酒は日本人の生活と社会を豊かにしてきたものと言える。

 基調講演は、山形大学学術研究院学士課程基盤教育院の荒木志伸教授が「考古学から見た古代の酒〜東北地方の出土資料を中心に」と題して行った。
 同会理事で、山形県立米沢女子短期大学の原淳一郎氏は、「旅と酒〜サカムカエとミオクリ考」について寄稿した。伊勢参りなど遠方へ命がけで出かける人へのミオクリ(見送り)については一般的に理解できる。一方、サカムカエとは、「酒迎」、「坂迎」と書き、「その言葉の認知度に比して論考は少ない」と原氏は述べる。確かに聞いたことがない。「備後國福山領風俗問状答」に、「見送りは遠方まても参り、酒肴なと携え候事も多く候、處により酒むかへも御座候へ共、是は至てまれに候、或は参宮人歸り候時、村中より錢出し合せ、氏宮にて盃仕候も御座候」とあり、例えば参宮から帰った人を村中でお金を出し合って氏神で盃を交わした事を紹介している。原氏は伊勢への道中日記に、ミオクリとサカムカエの実態や酒の機能について論考しているが、その中で、「酒は、旅における重要な場面で、社会的役割を与えられている。酒は、祝祭と儀式の両側面を際立たせて、促進する社会的機能を有する」と述べている。
 守谷英一会長は、「暮らしの中の酒使い」と題して、日本酒が他の酒とは違う意味があり、日本酒を贈る場面や贈り方、贈答品としての日本酒の使われ方を論考した。米の豊作を喜び、米を使って作られる酒を神様にお供えすることは古代から行われてきたが、これは神との一体感を持ち、加護と恩恵が得られるという思想で、日本酒は特別な儀礼で特別な飲み物として用いられてきたと述べる。他には、理事の阿部宇洋氏が「酒と物語」を寄稿。佐藤憲幸氏は「米沢藩の酒造業界」と題して、日本酒の起源から米沢の造り酒屋、米沢藩の酒造に関する規則、米沢藩での酒にまつわる犯罪についてレポートした。米沢藩の歴史で有名なものとしては、上杉鷹山が藩主時代、筆頭奉行だった竹俣当綱が領民が謹慎しなければならない藩祖上杉謙信の命日に、小松村の豪農の家で酒宴に興じて、不敬罪となり失脚したことだろう。古今東西、酒に伴う事件はつきまとうが、佐藤氏のレポートはいろいろな角度から酒を論考しており興味が尽きない。
 他の記事では、副会長の清野春樹氏が「さんきちょ(左義長)考」、「遠野物語のアイヌ語地名考〜古代中国の残影」の2レポート、鈴木真人氏が「和算で遊ぼう(塵劫記)」、渡邊敏和氏が「湯野川忠国の撰文について」、秦昭繁氏が「ヒトの思考癖」(その1、その2)をレポートした。民俗短信のコーナーでは、梅津幸保氏の草木塔などの論考がある。今回の冊子も内容が重厚で、理解することが難しいが、お酒という私たちの短かなところにあるものを通して、民俗学入門として入りやすい材料を提供している。

書名 置賜の民俗 第31号
発行 置賜民俗学会
   事務局 長井市九野本2978 島貫方
   電話 0238−84−7172
発行 令和6年12月25日
頒価 1200円(税込)