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軽飛行機に魅せられて20年、猪口春生さん

 米沢市在住の猪口春生さんは、司法書士、土地家屋調査士の仕事の傍ら、休日には福島市、仙台市にある飛行場から軽飛行機で全国の空を飛び回っている。昨年10月9日~11日まで、ふくしまスカイパークで開催された第1回全日本曲技飛行競技会では、着陸競技飛行に出場し見事優勝を果たした。空を飛びたいという誰もが持つ憧れを実現している猪口さん。軽飛行機との関わりは20年以上になる。

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ウルトラライトプレーンから軽飛行機へ

 約20年前、猪口さんは米沢青年会議所に所属し、米沢市の松川河川敷で開催されるアウトドアフェスタのために、飯豊町のウルトラライトプレーンのグループに展示の依頼に訪れた。そこで展示と引き換えに、そのグループの会員に誘われた。猪口さんは小さい頃から飛行機の操縦をしたいという夢を持っていたので、早速大空に飛び出した。段々と技量を上げていく中で、やがてセスナのような軽飛行機で空を飛んでみたいと考えるようになった。

 仙台空港には軽飛行機の操縦免許が取得できる飛行クラブがあり、猪口さんはおよそ2年半、月に1回か2回ほど仙台空港に通って毎回1時間~2時間の操縦訓練を受けた。日本では、80時間位で免許を取得している人もいるが、猪口さんはゆっくりと177時間かけて操縦訓練を行い、平成10年、軽飛行機の操縦免許を取得することができた。操縦できる飛行機は、離陸重量が5・7トンまでの単発固定翼の飛行機。それはセスナを二回り程度大きくした飛行機のイメージである。

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片道500キロも1時間余りでひとっ飛び

 猪口さんが現在所属しているのは、福島市にあるNPO法人ふくしま飛行協会と仙台市の美翔会、それに白鷹のスカイスポーツクラブの3カ所。NPO法人ふくしま飛行協会では、司法書士の資格を買われ、副理事長法務部長という重責を担っている。

 操縦技量を落とさないために、月に最低1回は飛び、多ければ3~4回という場合もあるそうだ。離陸するのは、ふくしまスカイパーク、又は仙台空港から。飛行コースは、ふくしまスカイパークからは米国製セスナ社のセスナ機で裏磐梯、大峠から米沢市内に入り、北に向かって高畠を通り、蔵王のお釜を上から見て、七ヶ宿を抜けて帰ってくるルートがいつもの散歩コースで、だいたい1時間くらい。一方、仙台空港からは、同じく米国製ムーニー社のムーニーという小型機で飛び立つ。このムーニーは小型ながら高性能で、燃費が良く、速く飛べ、オートパイロットも可能なすぐれもの。1000キロ以上の航続距離があるので、仲間たちと秋田、新潟、函館、札幌は言うに及ばず、伊豆大島、名古屋など片道500キロを越えて飛ぶこともある。少しの追い風があれば、対地速度は時速400キロを超えることも可能で、仙台空港から名古屋空港までは2時間余りとひとっ飛びだ。

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エンジンに求められるのは止まらない、長時間安定していること

 猪口さんの乗っている軽飛行機は、福島スカイパークにあるのが米国セスナ社のセスナC172N型、仙台空港にある米国ムーニー社のターボムーニーM20Kというもの。セスナは自動車で言えば、カローラのような大衆車的で実に乗り易い飛行機である。比較的にゆったりしていて、機体は丈夫、操縦性能は安定している。安価であることや、翼が上にあることから写真撮影などに多く利用され、日本の軽飛行機の中でも圧倒的にシェアが高い。排気量は5200CC、160馬力くらい、4気筒ピストンエンジンで、燃料はガソリンに添加剤を加えたものを使用している。

 一方、ムーニーという機体は、翼が下にありスタイルが良い。主翼の幅が広く燃費効率が非常に良いのが特徴で、排気量は5900CC、210馬力くらい。エンジンの回転は直接プロペラに繋がっている。セスナ、ムーニーともにエンジンの回転数は最大2700回転。それ以上速く回しても、空気とプロペラが剥離してしまい空回り状態になる。エンジンの性能で一番大事なのは、安定していて故障せずに絶対止まらないこと。これは人命に直結するからだ。ガス欠以外でエンジンが止まったことを聞いたことがない。

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1万2千フィートを越えたら酸素マスクを着用

 ムーニーの機体には、エンジンにターボが付いているので、高度は2万5千フィート(7500メートル)くらいまで上昇が可能だ。しかし、人間は富士山の高さ以上になると、酸素が薄くなり酸素吸入が必要となる。ムーニーは酸素ボンベを搭載している。高度3千メートル以上の高さを1~2時間飛んでいるととても体が疲れるそうだ。1万2千フィート(3600メートル)を超えると、操縦はとても危険になるので、必ず酸素を吸わなければならない。

 猪口さんがこれまで最高に上昇したのは2万3千フィート(6900メートル)。酸素を吸いながらも、酸素不足になっていないか爪の色が紫にならないように注意する。酸素が少なくなると人間の判断能力がすごく衰える。単純な計算や判断ができなくなる。しかもそれに自分が気づかない。その内に突然失神してしまう恐れがある。

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オートパイロット機能で目標に向かって自動操縦も可能

 さて、このムーニーを始め、セスナなどの軽飛行機は、前席の左が機長席、右が副機長席となっている。操縦席は左右両側にあるものの、旅客機と違い、メインの計器は機長席側についている。

 レーダーは付いていないが、静電気を感知して雨雲や雷などを検知するストームスコープという表示計器がある。軽飛行機の操縦は、自分の目で地面を見ながら、また機体の姿勢を維持しながら有視界飛行で行うことが多い。しかし、このムーニーにはオートパイロット機能がある。蔵王山、山形空港、仙台空港、福島空港、いわき市、新潟空港などには、VORという位置を発信する電波が出ている。オートパイロットはその電波を拾い、その電波に向かって自動的に高度や方向を維持することができる。仙台空港に自動的に着陸コースを導いてくれるアプローチモードも使用でき、パイロットにとっては非常に便利な機能である。

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曲技飛行競技会は緊急時を想定した訓練

 昨年、10月9日~11日まで、ふくしまスカイパークで第1回全日本曲技飛行競技会が開催された。ふくしまスカイパークは、米沢市から福島市に向かって国道13号線に沿って、福島市の入り口付近から山の上に登ったところにあり、当初は、農作物運送用に造られた飛行場。今では軽飛行機イベントとNPO活動で日本でも一、二を争う農道空港に発展した。この大会で猪口さんは、着陸競技飛行で見事優勝した。着陸競技とは滑走路に2㍍から5㍍の範囲を指定し、飛行機の着陸時にいかに正確に車輪を接地させるか競うもので、エンジンが停止した時の不時着を想定したエンジンアイドル状態でのもの等がある。

 この大会は、日本もアメリカ並みに曲技飛行競技会を行いたいと考えていたプロ曲技パイロットで、レッドブルーエアレーサーの室屋義秀さんが呼びかけたもので、1キロ四方のボックスの中で規定の飛行を行う曲技飛行と、着陸競技飛行の2つが行われた。この曲技飛行はパイロットからみれば、機体が異常姿勢になったときにいかにしてリカバリーするかという安全確保の技術を目指したものであり、大事な訓練の一環とも言える。

 当日は会場には低い雲が立ちこめて、競技会を開催するための飛行条件がなかなか整わなかったが、室屋義秀さんが操縦してのデモンストレーション飛行では、空中での宙返り、きりもみ飛行などアクロバット飛行を見せて観客からは歓声があがっていた。

 上空から見る大地の景色は本当にすばらしく絶品だ。湖、緑、海岸線、そして山頂の景色など、目の前に大パノラマが開けてくる。猪口さんは、風、スピード、高さに合わせて機体を自分の手でコントロールする醍醐味がたまらないという。また、軽飛行機は、グループに参加すればゴルフと同程度の負担でも飛ばすことができるので興味のある方は気軽に声をかけて欲しいと言う。その道に誘ってくれるとのこと。

猪口 春生(いのくち はるお)

 昭和29年、米沢市生まれ。米沢興譲館高校、東海大学工学部通信工学科卒業。猪口春生登記測量事務所所長、司法書士、土地家屋調査士。平成10年、軽飛行機操縦免許取得。平成16年、NPO法人ふくしま飛行協会副理事長法務部長。美翔会(仙台市)、スカイスポーツクラブ(白鷹町)会員。米沢市通町在住。