平成23年(2011)3月11日、1,000年に一度と言われる大地震が発生し、東北地方の太平洋側を中心に、地震と津波、そして福島第一原子力発電所の爆発という未曾有の被害をもたらしました。この大震災による死者・行方不明者は計1万8千人余りを数えます。
被災地には、救援のために自衛隊や全国から多くのボランティア・支援者が入りました。米沢市万世町で米沢牛レストランを営む古川清志さん(84)も東日本大震災がきっかけで気仙沼市との縁ができた一人です。清志さんは6月22日、約1年ぶりに気仙沼市を訪れました。清志さんの弟、古川功さん(平成26年逝去、73歳)は震災間もない時期、プレハブとテントでお店を再開した気仙沼市の「すがとよ酒店」の女将菅原文子さんに出会いました。震災に負けず頑張っている姿に感動し、文子さん自身の筆によるラベルのお酒「負げねえぞ気仙沼」を贈答品として得意先に配るなど、営業再開を応援しました。清志さんの所にもこのお酒が送られてきたことで、「すがとよ酒店」の存在を知ることになりました。
東日本大震災の年、「すがとよ酒店」は気仙沼市鹿折地区で酒店を営んで90年余り、地元密着で仕事を続けてきました。3月11日午後2時46分、文子さんはこれまで経験したことのないような激しい、そして長い揺れを感じました。約50分後の午後3時35分には、鹿折地区を津波が襲いました。津波は「すがとよ酒店」の2階軒下に達する高さでした。近くの浜町一丁目では9.69メートルを観測しています。 その時、2階に避難していた文子さんの義父母と1階店舗にいた夫の豊和さん(享年61歳)が津波で亡くなりました。豊和さんは、階段から必死に伸ばした文子さんの手をすり抜けて、目の前を流されて行方不明になりました。午後3時58分には、鹿折地区一帯で火災が発生しました。
文子さんは、一人屋根の上で一夜を明かし、翌日二男に救出されて九死に一生を得ました。町は辺り一面が瓦礫となり、「すがとよ酒店」も全壊でした。文子さんや2人の息子さんは、遺体安置所で豊和さんを探す日々が続きましたが、結局見つかりませんした。気仙沼市での死者は千30人、行方不明者は343人に達しました。(平成24年1月現在)
文子さんは「生きていくために」と、店舗再開を決意をしました。豊和さんがシャッターを閉めるために、命と引き換えに守ったお酒の一部が流されずに残り、断水のためそれらを沢水で洗い流し、店頭に並べました。
プレハブとテントの仮店舗で仕事を再開、豊和さんが残してくれたお酒が再起するきっかけを与えてくれたのです。大震災から1ヶ月と12日後の4月23日、今度は13坪の借地にプレハブとテントで再出発しました。文子さんは震災に負けたくないという気持ちから、自身が筆をとって「負げねぇぞ気仙沼」というオリジナルラベルのお酒を作りました。テレビや雑誌で紹介されると、全国から応援の注文が入りました。
この「負げねぇぞ気仙沼」のお酒は、思わぬ波紋を広げました。京都市にある西本願寺前の店頭に並んだことで、KBS京都ラジオパーソナリティーで西本願寺のお坊さんの本多隆朗さんが、震災の様子を聞きたいと、京都に文子さん招き、平成23年7月23日、ラジオ出演することになったのです。
さらに同年8月21日、「書くことで悲しみが癒されるから」と、京都在住の支援者の勧めで、文子さんは行方不明の夫、豊和さんに宛てた手紙を書きました。それは京都にある和洋紙販売会社、柿本商事株式会社が企画した手紙コンクールで、文子さんの手紙は12,000通を超える応募の中から「恋文大賞」を受賞しました。
しかし、文子さんの心の中は、行方知れずの豊和さんのことを思うと、晴れる日はなかったと言います。震災から約1年3か月が過ぎた平成24年6月5日、最後に解体していた市営アパートから突然、豊和さんの全身遺体が見つかりました。「判別できる状態は奇跡だ」と言われました。家族皆で「お帰りなさい」と迎え、葬儀を無事に済ませました。
創業100周年を翌年に控えた平成28年12月17日、「すがとよ酒店」は、元あった店舗のすぐ近くに戻って新装開店を果たしました。店舗は1階が小売スペース、2階がイベントスペースで、そこには寄贈されたグランドピアノを置き、地域の賑わい作りのための様々なイベントを開催しています。また気仙沼市の被災や復興の状況、「すがとよ酒店」の新装開店に至るまでの経緯を訪れた人たちに語りを行っています。
令和3年3月には「気仙沼湾横断橋」の開通が予定されており、気仙沼の新たな顔が誕生することになります。一歩一歩着実に復興を行っている気仙沼市へ、観光客の誘客が期待されています。「すがとよ酒店」や文子さんの歩みを見ると、家族が一丸となって難局を乗り切る不撓不屈の頑張りと、それを導く神仏のご加護があるように感じます。(取材:米沢日報デジタル/成澤礼夫)
すがとよ酒店
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