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公益財団法人山形県生涯学習文化財団(山形県生涯学習センター、山形市緑町一丁目)は、生涯学習の機会を県民に広く提供するため、平成2年の開所以来、様々な講座を開設し、その中で「山形学」講座はその中心的なものとして毎年テーマを変えながら開講している。
「山形学」は、山形県の自然や文化など、それに関する書物や情報のあらゆるものを教材にして多様な切り口から調査、研究する地域学で、「山形を知る」、「山形に生きる」、「山形を創る」、の3つの願いを込め、自分の住む地域を知り、山形県人としてのアイデンティティを確立することで地域を担っていく人づくりを目指そうとするものである。
令和元年度は、同年6月30日に実施した「山形学」フォーラム及び「山形学」講座では、「みやびとあそびの山形」をテーマにした。都から芸術や文化、そして「みやび」と言われるものが山形に入ってきた時、これを受け入れつつ、山形の中でより新しいものに作り変えて発展させる原動力となったものは、豊かで自由、ユニークで独自性に溢れた「あそび」心だったのではないかという仮定を元に、「あそび」とは何か、あそびはみやびをどう変え、山形のみやびはどのような性質のものかという問いに答えていく。
フォーラムでは、まずアーティスト・絵本作家で、2014〜2018年まで「みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ」芸術監督を務めた荒井良二氏が「ぼくの山形楽(やまがたがく)」と題する基調講演を行った。
山形市出身の荒井良二氏は、「東京を足場に世界へ行く」と十代から考え、「世界とはどこかへ行くという感覚」を持ちながらイラストレーターとなり、絵本作家となった。19歳の時に外国の絵本を見て、「このような表現方法があるんだ、絵本って大人も読むんだ」という考えが浮かび、そこに自分が入れる隙間や絵を描く理由があるかもしれないと考えて、今日まで創作を続けてきた。そして絵本を描くことで命拾いしたというくらいに元気になったと述べる。それは自分の中にいるかつての「内なる子供」のような対象を見出したことによるものだ。荒井さんは、山形のことを勉強したり考えていくと、他の地域にも興味関心が広がると述べる。
続くシンポジウムでは、東北文教大学短期大学部特任教授の菊池和博氏がコーディネーターとなり、荒井氏のほか、山形銀行頭取の長谷川吉茂氏、出羽桜美術館館長の加藤千明氏、角川文化振興財団クリエイティブデイレクターの宮本武典氏がシンポジウムで「みやびとあそびの山形」をテーマに語り合った。
長谷川氏は「長谷川コレクション」と言われるものを同家が山形美術館に寄贈して50年となることから開催された展覧会を振り返り、山形における紅花の歴史と、紅花の専門商として活躍した同家の歴史を述べる。同家は京都にも別邸があったことから、収集した作品は作家と直接の交流があり、作品への理解が深い中で行われたと述べる。
また山形県内の美術館を指して、他県はトップランナーのように見えるが、川西町の掬粋巧芸館は昭和7年に東京以北で初めて財団法人として美術館が作られたほか、昭和22年には酒田市の美術館が設立されたなど、他県に比べてラストランナーに見えるが、実は一周早いラストランナーだとユニークな発言があった。
加藤氏は、古い時代から和歌や俳句で読まれてきた山形の魅力について触れる。そこで取り上げたのは、「縄文の女神」で日本で一番美しい女神と述べる。また山形を代表する歌枕に「最上川」があるが、山形の自然風土に惹かれて、西行や芭蕉など多くの文人らが訪れ、それが山形の芸術文化を形成する要因にもなっているとした。
面白いことに、先人の残した歌を後代の文人がその精神と歌枕、文節などを利用して、さらにそれを展開した歌を残していることだ。
宮本氏は、今の若い世代は山形の伝統文化から文化的に完全に断絶しており、山形の山間部や港などで継承されている年中行事や土着の文化は、外国人の学生が見てエスニックに感じるのと同様の体験になっていると述べる。ただその中に懐かしさやいいなと思う感情が湧いてくる。さらに海外志向だった若い人たちが、逆に日本の地方の深いところに足を運んで、その中で様々な作品を生み出している例を紹介した。
山形の現代建築は「自然によって磨かれていく」という。それはまず雪、次に景観との調和、歴史的な文脈が背景にあるためで、これからなお強調され、発見されていくと思うと述べる。
講座は5回開催され、「みせる」、「えがく」、「まう・うつす」、「かなでる」、「こしらう」をテーマに館内学習と現地学習が行われた。
今回の遊学館ブックスは、テーマといい、内容といい、従来にも増して広く、深く、高く、十分に読み応えがあった。最近、米沢市には世界レベルで活躍する芸術家が移住したり、活動の拠点を持ってくる例が散見されるが、私はこれまでよくその理由がわからなかったが、今回の講座を通して、その答えが山形の持つ魅力であり、その魅力を生み出す土壌といったものが背景にあることを理解できた。ぜひ一読を勧めたい。(書評 米沢日報デジタル/成澤礼夫)
定価 本体1,000円+税
発行 公益財団法人山形県生涯学習文化財団
発行日 令和2年12月23日
(2021年1月30日19:50配信)