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竹田 歴史講座

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書評 遊学館ブックス『山形にも迫る環境異変』

1 公益財団法人山形県生涯学習文化財団(細谷知行理事長、山形県生涯学習センター、山形市緑町一丁目2-36)は、生涯学習の機会を県民に広く提供するため、平成2年の開所以来、様々な講座を開設し、その中で「山形学」講座はその中心的なもので毎年テーマを変え開講している。
「山形学」とは、山形県の自然や文化など、それに関する書物や情報のあらゆるものを教材にして多様な切り口から調査、研究する地域学。「山形を知る」、「山形に生きる」、「山形を創る」の3つの願いを込め、自分の住む地域を知り、山形県人としてのアイデンティティを確立することで地域を担っていく人づくりを目指している。

 本書では、山形学フォーラム『山形にも迫る環境異変〜先人の知恵に学ぶ〜』(令和3年6月27日に開催)及び第1回講座(7月25日開催)、第3回講座(9月11日開催)、第5回講座(10月16日開催)の内容を記録している。
 全国的に極端な気温の変化、多発する集中豪雨や河川氾濫、山形の冬の観光資源・樹氷の衰退、頻繁におこる地震活動など、私たちの暮らしを取り巻く環境に異変が続いていることから、山形にも迫る環境異変について、先人はどう対処してきたかを学び、現状認識と今後の対応策を考えようとするものである。
 フォーラムでは、国立環境研究所地球システム領域副領域長の江守正多氏が「地球温暖化と私たちの未来」と題してオンラインで基調講演を行った。江守氏はこの中で、地球の温度は短期的には上昇・停止・下降しているように見えるが、長期的には上昇の傾向を示し、コンピュータに人間の影響を考量したデータを入れると、実際に起こった温度上昇が説明できると述べる。その最も大きいものが化石燃料、石炭、石油、天然ガスを燃やすことによって排出される二酸化炭素で、大気中の濃度が増えると記録的な高温が起きやすくなり、異常気象が長期的にだんだん増え、海面上昇、洪水や台風、熱波、食料不足、水不足などのリスクが増えてくる。
 変わる気候に合わせて、人間の社会や生活を変えていくことが必要だとして、「適応策」と呼んでいる。2018年12月に「気候変動適応法」がスタートし、国は温暖化による全体的な適応方針と計画を発表し、自分が住むところがどうなっていくかをよく理解して、どう備えるか、話し合って計画を立てることの重要性を説く。
 温室効果ガスの排出削減には、まずエネルギー対策を考え、省エネ、再生可能エネルギー、原子力発電など、他には革新的技術によるイノベーション、地域分散型のエネルギー社会を目指すことで可能となる。江守氏は、それを「人類は化石燃料を使う文明は今世紀に卒業する」として、太陽、風力、バッテリーなどを加速させていく必要性を述べる。気候の変動の最終的な解決策は、「脱炭素」、社会の脱炭素、システムの変化をあげている。もはや一人一人が少し節電だけをやっている場合ではなく、社会のシステムが脱炭素化を後押しすることだと結論づけている。
 続くパネルディスカッションは、栗田邦明氏(山形地方気象台次長)と遠藤宏幸氏(山形県農林水産部農業技術普及推進専門員)が『山形にも迫る環境異変〜先人の知恵に学ぶ〜』をテーマに話し合った。
 栗田邦明氏は、山形県の過去100年の年平均気温や一時間降水量で、30㎜以上の「激しい雨」という現象などを紹介しながら、100年後には山形市は今の広島市や四国高松市と同じ気温になることを予測した。それは熱帯夜が増え、真冬日がなくなるなど、山形県のスキー場など雪に関する産業にも影響すると述べる。
 遠藤宏幸氏は、気候変動による農畜産物への影響として、ブドウなどの果実の色づきが悪くなったり、リンゴなどで日焼けで果皮が変色する問題を取り上げる。水稲では、高温によって白未熟粒や胴割粒などの品質低下が見られる。適応策は、高温に遭遇しても品質や食味を保てる品種、着色に障害が発生しない、発生しづらい品種の開発をあげ、一方、暑さの活用では、庄内地方が2060年に温州みかんの栽培の適地になるという予測をあげたほか、西日本で栽培されている果樹、野菜が山形での栽培の検討の対象となっていることを紹介した。
 第1回講座は、「環境異変に立ち向かう知恵〜山〜」、第3回講座は、「環境異変に立ち向かう知恵〜海・川〜」、第5回講座は、「環境異変に立ち向かう知恵〜大地〜」で講演が行われた。
 
 環境変化の問題は、一人一人の地道な省エネで解決ができるレベルをはるかに超えていることが本書で理解することができた。システムとして、変化に備えた「適応策」を考えることが大事である。また社会全体として、脱炭素化を図っていくことは待ったなしで、既得権や従来意識の打破も必要となろう。日本は自動車のEV化が米国や中国に比べて遅れているとされる。EV化になれば、それまでエンジンの部品を製造していた企業にとっては、死活問題となる。しかし、環境問題への取り組みは、世界の潮流に乗り遅れないことが、日本の生きる道となると言えるかもしれない。本書の多方面からの鋭い指摘とアドバイスなどが、私の環境問題への認識を改めることにつながった。(書評 米沢日報デジタル/成澤礼夫)

定価 本体1000円+税
発行 公益財団法人山形県生涯学習文化財団
   TEL 023ー625-6411
発行日 令和5年2月15日

(2023年2月12日16:05配信)