新潟県長岡市にある長岡ペンクラブ(堀桂子会長)が発行する冊子。Penac(ペナック)とは、poet(詩人)、essayist(随筆家、評論家)novelist(小説家)artist(芸術家)civilian(市民)の頭文字を結びあわせたもので、長岡ペンクラブによる造語。No.49は、2024年(令和6年)6月20日に発行され、寄稿者の一人、石田哲彌氏より私に送られてきた。
同会は昭和51年(1976)3月21日、羽賀善蔵氏によって創始され、これまで49年間にわたって長岡市民の文芸・文学活動を盛り立ててきた。長岡といえば、長岡藩の河井継之助に象徴されるように、武道や軍事が重んじられてきた尚武の地というイメージがある。その地に「柔らかな旗を掲げて、文芸誌を発足した」と羽賀氏は創刊号の巻頭言で述べている。現在、会員は60名強で、会員からの投稿原稿は勢いが増してきているとのこと。市民文学文芸の新しい歴史を創るため、創始者の精神を活動の柱に未来に向けて飛躍し、上質な品格が宿るよう、作品の品質向上に研鑽精進していると述べている。
長岡市の人口は、平成の合併もあり現在25万人余りで、人口規模は新潟県では2番目の大きさ。多才な人々が暮らしていることは想像に難くない。それにしてもPenacの冊子の厚さに驚嘆する。No.49は280頁もある。内容も評論、創作、随想、詩歌(詩、短歌、俳句、川柳)、編集局からの諸情報などで、ペナックに掲載された会員の作品は、同クラブが提供している「FMながおか」のラジオ放送で毎週月曜日午後に50分の番組で紹介される仕組みである。ラジオ放送とのコラボで、活動も周知しやすくなる。
さて、No.49では40人が寄稿し、冒頭の評論には5人が名前を連ねる。
曹洞宗寺院の住職である石田哲彌氏は「探訪検証 長岡の根源」を寄稿した。昨年5月20日、長岡市の蔵王堂別当である安禅寺でご開帳が行われた際、石田氏は2つの高貴な御物が飾られているのを発見した。一つは仏壇にお菓子を載せる「高杯(たかつき)」、もう一つはお香を入れる「香合(こうごう)」である。高杯には徳川家の紋章「葵の御紋」、香合には皇室の「菊の御紋」が描かれ、さらにその中心には3つ星が入っていた。御紋の専門家から、菊の御紋と3つ星は、皇室を守る比叡山延暦寺の宗紋と教えられた。いずれも超一級の代物となる。
石田氏は誰によってこれらはもたらされたのかを検証した結果、「妙徳院」という女性の存在が浮上した。この女性は栃尾城で旗揚げした上杉謙信を育てた重臣本庄実乃の孫娘で、江戸城大奥で奥女中の指導役となった人物。さらに将軍徳川秀忠と出会い、深い仲となって和子姫、のちの御水尾天皇の妃、東福門和子を生んだ。その孫は第109代明正天皇(女帝)となった。
妙徳院は絶世の美女とされ、石田氏は「日本のシンデレラ」と称している。そして長岡市は日本で唯一、皇后、天皇を生み出したまちであり、河井継之助や山本五十六だけではないと述べている。石田氏は妙徳院を語りながら、合併した長岡市を広い視野で見つめたいとも書いている。実にこの評論は歴史ロマンを感じさせる内容である。
随想では、渡辺彰氏が「頑固親爺の料理エッセイ」と題して、郷土の鳥獣料理に学ぶ(ジビエ料理)を紹介する。「郷土料理が響くのは、冷蔵庫のない縄文時代からの食の歴史だから」との説明には実に納得させられる。ジビエ料理の調理の上での注意点と覚悟を述べ、銃により仕留めた後の血抜きと適切な解体処理が重要な点で、その後、熟成させてから調理するのだそうだ。ジビエには、マガモ、アヒル、ヤマウズラ、雉、雷鳥、野兎、鹿、猪が食されている。以前、私は猪肉の牡丹鍋をご馳走になったことがあった。仏教の影響下、四つ足の動物の肉を食することを忌み嫌う中で、猪の肉を牡丹鍋と称して食することは、仏様も苦笑いかもしれない。そういえば、仏前のお酒を般若湯という。ものは考え方である。この随想を見て、私もジビエが無性に食べたくなった。
短歌には、3名が寄稿。松木鷹志氏の短歌「清浄化うんどうⅥ」(2023)は、とてもユニークな短歌。学校で短歌には季語があると教えられたが、松木氏の短歌には季語があるようで無いようでよくわからない。しかし、短歌の内容が川柳のような一面があってとても面白く、まさに前衛的な短歌の世界を行っているものか。
・今朝もまた医者通ひする爺なれば鬱鬱として財布たづさふ
・長生きは善しと云へども死別なら仕方ないのだ星影のワルツで送るぞ
・狂乱の大地なれども太陽を我らは巡る 命を載せて
・今晩も「山下清」の録画見つ ニンゲン性善説説うべひながら
良寛特集では、安達武男氏が「良寛に学ぶ」、金山有紘氏が「良寛の俳句」、江部達夫氏が良寛の短歌を俳句(英文)にしたものを掲載している。一つのテーマをいろいろな人が切り口を変えて、追求する試みは面白い。特集には、他に「ミニ小説」、「俳句」特集もある。ペナックレポートとして、出版本やイベントの開催などの話題を紹介しているのも良い企画である。Penacを初めて手にして、実に長岡市の歴史民俗、文化の広がりを感じた。長岡のペンは力強く、極太で、長〜いと感じた。長岡ペンクラブはホームページも配信し、同会に関する情報も提供している。Penacの次号も期待したい。(米沢日報デジタル/成澤礼夫)
冊子名 Penac No.49
発行者 長岡ペンクラブ 長岡市学校町2−11−25
TEL 090-1401-4874(事務局)
発行日 2024年6月20日
定 価 1,200円(本体1,091円+消費税10%)