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〜語り合いの中で、自分で課題を解決していく取り組みに〜
今年5月、介護についての悩みを話し合ったり情報交換ができる場として、米沢市にある浄土宗西蓮寺(伊藤竜信住職)で介護者サロン「わげんカフェ」がスタートした。このサロンは、伊藤住職が代表を務める「米沢わげんの会」が主催しているもので、「わげん」とは仏教語の和顔【わげん】に由来し、参加者が悩みを分かち合う事で和やかなお顔になってほしいという願いが込められている。
これまで介護について、社会や地域の中で表に出てこなかった部分がある。それは家族で介護している人がどのような思いで介護をしているのか、どんな悩みがあるのかということである。悩みを打ち明けたり話し合いをしたいと思っても、それぞれの家庭の事情や、親族間で介護に関しての方針が違って対立したり、孤立している場合もある。中々、介護に関して外で話をする機会がなかったという人は結構いるのだ。
「わげんカフェ」は隔月の開催で、午後2時から4時までの間、参加者は入退室が自由、お茶やお菓子が用意されており、参加費は無料だ。西蓮寺ではこれまで落語を開催するなど、従来のお寺の枠を超えた試みも行っている。お寺が主体で、介護を語り合うというのは米沢市では初の試みである。(写真左=なごやかな雰囲気の中で語り合う参加者たち)
伊藤住職が「わげんカフェ」を開催するきっかけは、浄土宗総合研究所研究員で、僧侶の東海林良昌さんが提唱する、お寺での「ケアラーズカフェ」があった。東海林さんは10年前、東北大学在学中、急に家族の介護をすることになった同級生が「介護をしている人の悩みを語り合える場が必要だ」と2ヶ月に一回の談話の会を始めた。その時に「お坊さんがいた方が面白い」と手伝いを求められ、さらに6年前、その同級生から「ケアラーズカフェ」を引き継ぐことになった。今、介護を受ける人口が増えるに従い、介護する人口も増えていくから、「ケアラーズカフェ」のような取り組みは時代のニーズである。東海林さんは、全国的な展開に向けて、各地のカフェにノウハウ提供や実地調査を行っている。
伊藤住職は東海林研究員とは旧知の間柄で、現在、米沢市内の病院で傾聴を通した寄り添いを行う「臨床仏教師」としても活動中である。西蓮寺での介護サロン開催に向けてのステージは整った。
7月5日、西蓮寺で第2回「わげんカフェ」が開催され1回目より10名多い28名が参加した。「わげんカフェ」が口コミで広がり、認知度も上がった結果である。この日は、西蓮寺の壇家さんや市民など介護を行っている(または行った)当事者が12人参加した。他に、サポートスタッフとして伊藤住職や東海林研究員、米沢市地域包括支援センター職員、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所研究員など、宗教、介護、医学、心理学の専門家が参加するなど充実した体制だった。
(写真上=左から、東海林良昌浄土宗総合研究所研究員、伊藤竜信西蓮寺住職)
出席者は一室の中で3グループに分かれてテーブルを囲み、自己紹介や参加した目的、きっかけなどを語り合った。伊藤住職や研究員らが各テーブルで進行を務め、参加者が自由に話し合える雰囲気作りや、話題提供を行った。当事者たちからは、介護している現状や過去の介護での経験などの話題が次々と出てくる。
ここでの語り合いは、介護者からの悩みに対してスタッフが問題を解決してあげるというのではなく、お互いに傾聴し合うといった場だった。話すことで心を軽くしていくというアプローチである。サロンが終わったら忘れていいような気楽な語らいだから、参加する人にとっても敷居は低いものになっているはずだ。
東海林研究員は、語り合い傾聴し合うことの重要性を述べる。「その場で答えがすぐに見つかるということではなく、継続的に来て語り合う中で、段々と自分の中で問題が整理出来て、最終的に自分でこうしたい、こうしようという所に結びついていけばいいのではないか」と述べ、そこで聞いている人も「温かい気持ちで支え見守っていくのが良い方法」だとする。その場には専門スタッフもいるので、必要な知識の提供はもちろん可能である。
西蓮寺の「わげんカフェ」には多くの人が集った。地域の中で信頼度の高いお寺であることの証拠である。国は、「地域包括ケアシステム」として、高齢者を地域で介護、医療、生活支援のサポートができる地域づくりを行っている。しかし、それも万全ではない。お寺で開催するメリットとして、「グリーフケア」(悲しみを癒すケア)といわれるものも住職が専門とする領域であることだ。遺族が家族を見送った後に、「介護や医療の選択はあれで良かったのか」と悩まれる方も結構多いという。人間の死という難しい領域に向き合うのが、お寺や住職の仕事である。
浄土宗寺院では、現在、東京都3か所、静岡県富士宮市1か所、宮城県2か所、山形県米沢市1か所と、同宗のお寺で介護サロンを開催している。更に今年中には、北海道小樽市と京都府で各1か所、静岡県3か所、鹿児島指宿1か所など、計17か所でオープンする予定だ。オープンにあたっては、浄土宗総合研究所として講習会の開催や立ち上げプランの作成支援、現場に出向くなどのサポートを行っている。
伊藤住職は、「初めての方もおいで頂きましたが、わげんカフェがどのような場所なのか、探りながら来ている方がほとんどだと思います。回を重ねていく中で必要とする人が集える会になっていけばいいなと思います」と述べている。
問い合わせ
・介護者サロン「わげんカフェ」(米沢市中央5丁目4ー7 浄土宗西蓮寺)
・担当 伊藤竜信(西蓮寺住職・米沢わげんの会代表)
・携帯電話 070−5457−6566
・Eメール:wagenyonezawa@gmail.com
(2019年7月13日15:15配信、7月14日8:50最新版)