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竹田 歴史講座

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農村文化研究所で佐野賢治氏(神奈川大名誉教授)講演

 

sano-1 今年2月27日、神奈川大学で最終講義を行い、同大を退職した佐野賢治氏(同大学名誉教授、前同大学日本常民文化研究所長、公益財団法人農村文化研究所長)が8月3日、米沢市六郷町にある(公財)農村文化研究所で「"幸せ"の民俗学」と題して講演を行った。
(写真右=講演を行う佐野賢治氏)
 佐野氏は「民俗学」の目的は、民間伝承(民間芸術)を通して「世界全体の幸福」を求めることであり、柳田國男が1926年『家の光』で著した「人が自分の入用なだけの学問を、勉強し修めている間は、まだ人間社会の全体を、これに由って改良する見込みは立たぬ。少しでも余裕の有る者が、他を助ける心持ちで、本を読みまた考えるようにならなければ、次の代は今より幸福にはならぬのである。」という文章と、宮沢賢治が同じく1926年に『農民芸術概論綱要』で著した「世界全体が幸福にならなければ個人の幸福はありえない」という二つを紹介した。
 また伝統と近代の相克の中で、「民」が発見されたと述べ、例えば、民俗では柳田國男、民芸では柳宗悦、民具では渋沢敬三、民謡では町田嘉章、民家では今和次郎の名前を挙げた。佐野氏は、柳田民俗学の対象は民間伝承で、在野性、野の学問(知恵)であり、それは官学(知識)を授ける学問とは違い、「経世済民」の思想で、どうすれば村が幸福に存続していけるかということを自覚させるような便宜を与えることが大事だと考えていたと述べた。
sano-2 伝承の「伝」は、伝播の「伝」で、文化の空間伝達を意味し、「承」は継承の「承」で、文化の時間伝達であるとした。そして常民とは、民間伝承を保持している人々を指し、英語の「folk」、ドイツ語の「volk」、中国語の「老百姓」に当たり、日本民俗学では日常性を表す文化概念として「民の常」を意味するが、柳田國男は「稲作農耕に従事する人、農民の意味」で使用したとその違いを説明した。
 さらに柳田民俗学に対しての渋沢民具学は、研究の方法論として共同研究の推進や、絵引と目録などの索引を重視していると特徴を挙げた。韓国では、サリムサリ(生活財)に関しての調査報告書の事例を紹介、家庭の中に入りどんなものを持っているかを詳しく調査を行いデータベース化しているという。
 ドイツの哲学者インマヌエル・カント(1724~1804)は、「永遠平和のために」(1795)の中で、世界市民、国際連盟(Volkerbund・平和会議)を提唱し、フランスのユダヤ人実業家・銀行家のアルベール・カーンは、1930年にかけて、世界約50カ国に写真家を派遣して、72,000枚以上のカラー写真を撮り、それは約100時間の庶民生活を治めるフィルムとなったと述べ、平和のための二人の取り組みを紹介した。
 最後に、佐野氏は世界常民学の目的の一つは、「戦争の抑止」にあると述べ、相互の風習と生活を知らないことが人類の歴史を通じて人民の間に疑惑と不信を起こした原因であるとして、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」というユネスコ憲章(1945)の抜粋を紹介し、常民学からの平和へのアプローチについて述べ講演を締めくくった。