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竹田 歴史講座

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福田直樹氏、「24のピアノ小品集『おはなし』」出版


 

fukuda-1 平成29年2月、東京都から米沢市南原猪苗代町に移住し、現在、「米沢IJU応援大使」の肩書きを持つピアニスト福田直樹さんが、令和3年11月、自身が作曲した「24のピアノ小品集『おはなし』」の楽譜を出版した。
(写真右=出版した楽譜を手にする福田直樹さん、令和3年12月7日)

 楽譜は米沢市などの風景写真が掲載されているほか、作曲者自演による参考音源のCD(高音質CD、SACDハイブリッド)が付録されており、福田さんのこだわりが随所に見られるものとなっている。
 福田さんがこの小品集の作曲を思いついたのは、令和2年1月、日本でも新型コロナウイルス感染症が確認され、それが拡大してパンデミック、演奏会が中止に追い込まれる状況となり、感染の終息まで時間がかかるかもしれないと考えた。その中で「音楽を通じて多くの人に心の安らぎを届けたい」と同年8月から作曲に取り掛かったものである。
 題名の『おはなし』は、福田さん自身が演奏する際に最も重要なテーマと考えている「言葉と音楽」の意味を伝えたかったことから命名した。全部で24曲から構成され、その数字の24は、ピアノの鍵盤が1オクターブ12音で、長調と短調のすべての調を書いていくと24になることに因んだ。バッハの平均律クラヴィア曲集やショパンの前奏曲にも24曲からなる曲集がある。しかし、日本人作曲家の作品としては珍しい構成だという。
 小品集には、『吾妻の白猿』、『敬師の里』、『草木塔』など、「米澤八景」とサブタイトルを付けたものが8曲、ほかに『羽黒五重塔』など山形に因んだものや、平成23年の東日本大震災で津波により大きな被害を受けた釜石市を訪問したことがきっかけで作曲した『虹の釜石』など、すでに作曲済みのものも数曲加えた。
 全体的には、福田さんが現在住んでいる山形県米沢市の風景や風土から多くのインスピレーションを受けているように見える。曲調はヨーロッパ調、日本調のものなどいろいろあり、福田さんは「演奏者にも聴衆にも楽しんでもらえるのではないか」と話している。
 
fukuda-2 CD製作のための録音は、令和3年4月8日〜9日の2日間かけて、米沢市の置賜文化ホール(伝国の杜)で行った。録音に使用したピアノは同ホール備え付けの「スタインウェイ」。
(写真左=録音中の福田直樹さん。令和3年4月8日、伝国の杜)

 倍音と呼ばれる微妙なニュアンスの音をマイクで拾うために、ピアノの上部と前部の蓋を取り払い、弦を剥き出しの状態にしてマイクを弦にできるだけ近づけて録音した。最良の録音環境となるように、ステージ上のピアノ位置や客席に対してのピアノの方向にも注意を払った。
 福田さんはピアノの調律師に特別のことをしてもらった。それはある曲の一部のためにだけ少し音程を狂わせて調律してもらったこと。調律師は「長年調律をやってきたが、音を狂わせてほしいという注文は初めてだ」と話していたという。そのような技術を使っての録音は、おそらく世界で初めてではないかと福田さんは話す。
 福田さんがさらにこだわったのは、楽譜の印刷や製本方法。ドイツやオーストリアで勉強してきた福田さんにとって、外国で出版された楽譜は、その見易さ、音符の読み易さ、使い易さは、日本のものとは天地の差があるという。特にドイツ語圏で作ったものはグレードが高く、こだわりを感じるという。日本の楽譜は使うことはできても使いづらいという。グレードというより、「そこそこ使えれば良い」といった感じがするという。例えば、日本の楽譜は製本の仕方が糊とか、ホッチキスで綴じられているため、ページをめくると戻ってしまう。これでは演奏者はピアノが弾けない。外国で出版されたものは、「糸かがり」といって、どのページを開いてもそこでピタッと開いたままになる。福田さんの『おはなし』では、この「糸かがり」を採用した。
 また楽譜のサイズを少し大きくして余白が大きく取れるようにした。演奏者は、気づいたことをその余白に書き込む場合がある。福田さんがレッスンで勉強している時に、先生の言うことを書き込む必要があったことの体験が生きている。
 ほかにも、長く練習する時やステージ上の強いスポットライトで演奏する時など、楽譜の白い紙や黒いインクが光らないよう徹底的に吟味した。だから福田さんの楽譜は真っ白ではなく、少しクリーム色がかかっている。
 福田さんが特に配慮したのが、楽譜の中の写真。これまでも楽譜の最初と最後に写真が掲載されているものはあったが、それは楽譜に写真を載せたという視点だけだった。一方、『おはなし』を見てみると、ページの途中に多く写真が挿入され、写真があることで教える側は曲のイメージを伝え易くなるし、演奏する側も受け取り易くなる。しかし、それはすべてのページで5色カラー印刷となり、コスト的には割り増しとなった。

fukuda-3 昨年11月に第1版の出版を果たして、福田さんは漸く肩の荷を降ろすことができた。この小品集は、今後、福田さんが全国で行うコンサートに携えていく。その使い方は、一過性のものではなく時間をかけて宣伝をしていくつもりだ。それは「米沢IJU応援大使」の活動や米沢市の観光を紹介する意味からも強力な助っ人となるだろう。
(写真右=録音中の福田直樹さん。令和3年4月8日、伝国の杜)
 福田さんはオーストリアでの留学から帰国して、30年余りが過ぎた。帰国した当時から一つのテーマがあり、今も継続していることがある。それは福祉施設でのコンサート。自閉症の子供たちが音楽に接した時にどのようば反応を示すか、その研究を行っている。福田さんの経験から、そのような子供たちは、心を落ち着ける曲、パニックを起こす曲があることを知った。心を落ち着ける曲であっても、弾き方で変わってくるという。この小品集には、そのような心理学的な効果を確認できる要素を取り入れたものとなっている。
 自閉症の子供たちにとっても効果があると考えられるものであるので、当然、普通に音楽を聴いている人は、BGMとして聞いてもらっても精神的に安定し、リラックスできることは間違いない。福田さんは、「もし新型コロナがなかったら作曲や楽譜の製作を思いつくことはなかったと思います。環境は作曲家や音楽家に大きな影響を与えるものだと思います。」と話している。
 福田さん自身による演奏で、「24のピアノ小品集『おはなし』」の全曲演奏が近い将来、生で聴けるかもしれない。(取材 米沢日報デジタル 成澤礼夫)
 
作曲者 福田直樹
楽譜名 24のピアノ小品集『おはなし』
    (高音質CD、SACDハイブリッド 作曲者自演による参考音源付)
    (ISBN978-4-910750-00-2)
発 行 みちのく書房
    〒999−3104 山形県上山市蔵王の森7
    TEL 023−677−1181
定 価 4,000円(本体3637円+税10%)