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竹田 歴史講座

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米沢市上杉博物館企画展、「今泉篤男と美術」開催
 

1 米沢市上杉博物館は、令和5年7月8日(土)から8月20日(日)までの期間、企画展「今泉篤男と美術」を開催している。7月7日、同館の遠藤友紀学芸員が内覧会で解説を行った。
 今泉篤男(いまいずみあつお 1902〜1984)は、米沢市出身で戦前から評論活動を始め、国内外の美術工芸の幅広い分野を対象にした美術評論家である。東京国立近代美術館次長、京都国立近代美術館初代館長を務めたほか、資生堂ギャラリーをはじめとする多くの美術館の運営に携わった。
 今回の企画展は、作家からの視点ではなく、美術評論家今泉篤男が残した作品の評論から作品を集めて開催するという通常とは逆のパターンの企画展という面白さがある。今泉篤男ゆかりの作家の作品を今泉の言葉を通して鑑賞することで、作品への鑑賞力が深まってくる。地元米沢でもあまり知られていない今泉篤男を紹介する意欲に満ちた企画展である。
2 今泉篤男は、旧制米沢中学校から山形高等学校(現山形大学)に進み、文芸部に所属、同人誌『新樹』に小説を発表、また洋画グループ「毒地社」に参加した。1923年に、東京帝国大学文学部美学美術史学科に進み、大学院に在籍、その後に明治学院高等学部で教えた。1932年に渡欧し、パリ大学、ベルリン大学に学んだ。1934年に帰国、このころから美術評論の執筆を始め、雑誌『アトリエ』などに執筆や都新聞(現 東京新聞)の客員記者として美術評論などを執筆した。戦後は、1951年9月、国立近代美術館設置準備委員に任命され、美術調査研究のため、イギリス、フランス、イアリア、スペイン、ギリシャ、アメリカを歴訪、翌年7月帰国。
3 1952年8月、美術雑誌、新聞などで「サロン・ド・メ」(ヴェネチア・ビエンナーレ 1952年に開催され日本初参加)出品作家の作品を見ての批判で、「今泉旋風」として議論を巻き起こした。1967年〜1969、京都国立近代美術館初代館長に就任、1979年、求龍堂より『今泉篤男著作集』が刊行された。1984年1月19日、急性心不全のため逝去した。(写真右=ルノワール作の赤いブラウスを着た花帽子の女)

 今回の企画展では、絵画、ブロンズ、陶磁、資料、参考など約70点を駆使して企画展を構成している。
 「1 生い立ち 米沢・山形での学生時代」では、今泉篤男が描いた油絵『監獄の外郭』や文芸誌『新樹』などを展示、評論家として歩む基礎となる若い時代の今泉を紹介している。
 「2 東京帝国大学〜留学〜 初期の評論活動」では、東京国立近代美術館所蔵の「裸婦」(前田寛治)などを展示する。今泉は自身が接した画家その人と、生い立ち、日記、パレット、画風など多方面からの丁寧な観察・分析を行い、その生涯とその芸術の二部構成による長編の論考にまとめたが、このスタイルはそれ以降引き継がれていく、今泉の批評様式となった。
 「3 美術批評家 今泉篤男の誕生」では、吉野石膏美術振興財団(山形美術館寄託)が所蔵するルノワールの「赤いブラウスを着た花帽子の女」がとりわけ目を引いた。今泉が執筆活動をスタートした最初に本格的に取り組んだ外国作家がルノワールで、日本の作家への影響が少なくない。今泉はルノワールの作品を丁寧にかつ緻密な批評を行っている。教科書にも出てくる著名なルノワールの作品を目の当たりにすると、絵画からはフランスの香りが漂ってくるようだ。

4 「6 ゆかりの作家たちと・郷里へのまなざしと」では、彫刻の桜井祐一、絵画の小松均、福王寺法林、遠藤桑珠などの郷里・山形ゆかりの作家たちとの結びつきと影響を紹介している。
 特に、郷里ゆかりの作家には期待を込めてことさら厳しく批評していたことがうかがえる。
(写真左=右手が「遺跡への道」遠藤桑珠)
 遠藤桑珠は子息がメキシコに住んでいたことから、メキシコに何度も足を運び、メキシコの風土に魅せられ、その自然、遺跡などを絵画の題材とした。その中で「遺跡への道」(1980)が展示されている。今泉はその遠藤に対して、「風景、人物、静物があるが、私はその中で風景がいいと思う。色調は明るいけれど、それでいて絵が軽くならないところが佳い。爽やかである。(中略)乞う、遠藤桑珠先生、画壇の花形になどなろうとするな。自愛せよ。自愛は健康のことばかりではない。画心を自愛せよと言う意味である。」(「遠藤桑珠の近作」『メキシコ風物展』図録1980)となかなか厳しい。
5 企画展を記念して、7月15日(土)14:00〜15:30分、伝国の杜2階会議室で、日本芸術院会員、日本美術院同人の福王寺一彦氏を招き、「今泉篤男先生と父法林の思い出」と題した講演会が開催される。
(写真右=最上川源流図、最上川上流長井付近その1、同その2 小松均)
 福王寺氏の画家としての今日に大きな影響を与えた今泉篤男について、様々な思いを語る。(聴講無料)申込み 0238−26−8001まで。